タイに住んでいた頃。

 

マンションに住んでいた。

 

きっと西洋の人なら

クツのまま室内を

歩いていたんだろう。

 

でもボクらは日本人。

段差なんて微塵もなかったけど、

玄関のところでクツを脱いでいた。

 


 

ある週末に

デパート買い物に行ったときのこと。

 

 

スリッパを買ってもらった。

 

 

小学生のボクにぴったりの

いかにも小学生が履くような

スヌーピーの絵のついた

黄色いスリッパ。

 

外回りは

皮をイメージしたような感じみたいっぽい

合成樹脂、

 

内側、特に足の裏が触れる部分は

ふかふかのタオルをイメージさせる

おそらくナイロンと綿の合成。

 

 

 

ボクはこの黄色いスリッパが

えらく気に入った。

 

なんだか大人みたいだし、

歩く時にパタパタ音がするのが好きだった。

 

タクシーの運転手やミッキーが

白手袋をしているように、

スリッパを履くことで

なんとなく清潔感を感じた。

 

はだしの兄には

「ふふん、いつまでも子どもじゃないんだぜ」

って優越感があったし、

 

おそろいのスヌーピーとはいえ

赤くてサイズも小さい妹のスリッパには

「ふふん、こっちは黄色だしサイズも大きいぜ」

って(またわけのわからん)差別化をしていた。

 

 

 

勉強なんて

「なにそれ?」

だったけど、

スリッパがあれば

机に向かえたし(ほんのちょっとね)、

 

「ご飯よー」

って言われれば

スリッパをパタパタさせて

駆けていく姿が

妙に嬉しかった。

 


 

 

別れはある日突然起こった。

 

 

 

スヌーピー大破。

 

 

 

つま先の部分は

黒光りして、

穴が開きかけて、

かかとの部分は

べろんべろんになっていた。

 

 

 

それが母にばれてしまった。

 

 

 

母は言う。

「それ、捨てるわよ」

 

 

 

確かに

パタパタいう音も

いちいち気にしなくなり、

扱いも乱暴になっていたし、

足もちょっぴりきつくなってきていたけれども、

 

けれども!

 

買ってくれておいて

ボロくなったら

はいそれ捨てるわよって

なにさ!

 

何様だよ?

え?

 

お母様?

あ、そうですか、

はい、わかりました・・・

 

 

ということで、

 

 

お気に入りの

黄色いスヌーピーのスリッパが

歩む最後の道のりは

自らが捨てられるゴミ箱へと

決定してしまった。

 

 

 

・・・あんまりだ・・・

当時のボクにとって

 

ゴミ箱へと向かう

スリッパの道のりは

 

溶鉱炉に自らを沈める

ターミネーター

 

に等しかった。

 

 

・・・あんまりだ・・・

 

 

 

だから

ボクは最後の抵抗をした。

見慣れた黄色いスリッパを

ゴミ箱からこっそり

拾い上げ、

勉強机と椅子の間に

隠した(というか丁寧に置いただけ)。

 

 

大きな仕事をやり遂げた

達成感、

 

勇気を振り絞った

克服感

 

ゴミ荒らしという

罪悪感

 

3つの感情が

じわりじわりと

わきあがって

交差して

3色が混ざり合おうとした

瞬間、

 

 

 

母 「なにそれ。はら、早く捨てるわよ」

 

 

 

ばれた。

 

 

 

・・・あんまりだ・・・

 

 

 

自分の不甲斐なさを悟り、

いよいよスリッパとの

最後の別れを覚悟し、

 

今度は

ゴミ箱までの

道のりを

スリッパを大事に抱えながら

はだしで歩んだ。

 

ゴミ箱にスヌーピーを

丁寧に収めたあとは、

二度と振り返らなかった。


ものは大切にしましょうね。

スリッパ1つで

半泣きするくらいに。

 

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