ボクの記憶は

ケニアで

車のおもちゃに

またがって

家の庭で

遊んでいた時に

始まった。

 

 

ひろいひろい庭。

 

 

まもなくして

犬のキャンディが来たけれど、

 

それより前からずっと、

ボクには兄がいた。

 

 

 

家の敷地の外側には

幼稚園へ行くのと

買い物や食事に出かける

以外では

けっして出ることはなかった。

 

だから

四つ年上の兄が

学校に行かないとき、

おそらくボクは

いつも兄と一緒に遊んでいた。

 

 

ひとりならいつも

広い広い家の中で

おもちゃの車を走らせていたけど、

 

兄と一緒なら

広い広い庭が

ジャングルと化した。

 

 

キャンディに追い抜かれても、

ケンちゃんに告げ口されようとも、

ボクには兄がいた。

 

 

広い広いジャングルの中で、

隠れて一緒にタチションもしたし、

水たまりで溺れたりもした

(ボクだけね)。

 

 

 

日本に戻って、

ボクも小学校に通って、

同じ歳の友達もできた。

 

同じアパートに住む

あつしくんには

同じく

年上の兄がいたから、

 

ボクがあつしくんちに遊びに行くと、

やはりそこには

ボクの兄がいた。

 

 

 

タイに行くと、

ボクが住んだマンションには

同じような事情の日本人が

たくさんいて、

 

兄弟や親戚

とは比べ物にならないほど

たくさんの子どもがいた。

 

するとどうしても

近い年齢の子どもと

仲良くなるし、

ゲームや漫画はもちろん、

遊びの内容も

頭のレベルにふさわしくなった。

 

兄も同じで、

マンションの中では

どちらかというと年長だったからか、

学校の友達との方が

仲がよかった。

 

 

最初の頃は

 

一緒にお風呂に入って

シャンプーや石鹸を

ぶちまけて

浴槽を化学薬品工場

にしたり

 

プラスチックの

トランプをもちだして

なぜか浴槽でポーカーをして

カードがはりつくから

にわかイカサマ師になったりもした。

 

 

 

タイでも一度

引越しをした。

 

 

前とは違い、

それぞれ個別の部屋があり、

それぞれの部屋には

それぞれのお風呂とトイレが

ついていた。

 

次第に

一緒にお風呂に

入らなくなったし、

サッカーやドッジボールは

当然しないし、

そこにはジャングルもなかったから、

 

「一緒に遊ぶ」

ってことがあんまりなくなった。

 

 

 

その頃ボクは

なぜだか

兄と仲が悪く、

いつもいつも

泣かされていたように

思う。

 

今思えば

きっとそれは

ボクがわがままを

押し通そうとして

ケンカしてばかり

していたんだろうけど、

 

当時のボクにとっては

兄は一番身近な

敵だった。

 

 

 

何度も何度も泣かされて、

でもボクはちっとも強くなれなくて、

それでもボクは

負けたくなかったし

何とか抵抗してやろう

何とか勝ってやろう

といつもいつも

火がくすぶっていた。

 

 

 

小学4年生くらいだったか。

たしか中華料理屋に

ご飯を食べに行っていたときだと思う。

 

何らかの理由で

またボクが兄に泣かされた。

 

 

たぶん親にしてみれば

毎度毎度のことなんだろうし、

兄にとってもそれは同じだったろう。

 

でもボクには違った。

 

涙を流しながら、

なぜだかボクは

決意した。

 

 

 

「もう二度と泣かない」

 

 

 

それからは

何をされようとも

意地でも泣かなかったし、

 

むしろ何もされなくなった。

 

 

 

兄は中学、高校、大学へと

進学し、

四年ずつ遅れて成長するボクとは

特に共通の話題もないし、

 

学校や部活の様子を知らせたり

 

好きな女の子のタイプを話したり

 

何かを熱く語ったりすることは

 

なかった。

 

 

唯一

マリオカートやチェスでは

すべてが対等で、

時にはボクが勝ったりも

していたけれど、

 

基本的には

常に

四年遅れで

兄の後を追っていた。

 

 

 

兄と同様、

大学への進学と同時に

ボクは家を出た。

 

兄が大学、

ボクの大学、

あわせて八年間、

離れて暮らしている。

 

 

いよいよ

年に何回かしか

会わないし、

話す機会も少ない。

 

 

でも、

不思議なもので

 

たまに会うからこそ

たまに遊ぶからこそ

たまに話すからこそ

 

とりとめのないことが

今は楽しくて

無邪気に笑える。

 

夜遅くに

「コンビニ行くぞ」

って。

 

激辛ラーメンを

「これ食ってみろ」

って。

 

自分は二度目なのに

「おもしろいから」

って同じ映画を一緒にみたり。

 

お互いに負けたら

もう一回勝つまであきらないから

スーパーファミコンの

マリオカートの

キノコカップの

おばけぬまコースは

ボクらのホームグラウンドに。

 

 

くだらない。

そのくだらないやりとりが

たまにしかそろわない

うちの家族を、

なによりボクを

「ホーム」に帰らせてくれた。

 

 

 

ボクの人生が始まってから

一番身近にいた

味方であり

敵であり

ライバルであり、

目標でもあった。

 

 

 

おにー。

結婚おめでとう。

2006.1.22

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